2011年01月03日
≪小説目次≫


【R18】表記の作品は、18歳未満の方は絶対にご覧にならないでください。
【R15】表記の作品は、15歳未満の方は絶対にご覧にならないでください。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≪短編≫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<他カップリング>

僕の一日は兄さんで始まる
(ロロルル)  2009.01.02 up

オオカミとオオカミ
(朝vsジノ×ルル)  2009.01.10 up
オオカミとオオカミ {後日談}
(朝vsジノ×ルル)  2009.01.14 up
オオカミとオオカミ+オオカミ {勝利者は誰?}
(朝vsジノvsスザ×ルル)  2009.01.26 up
オオカミとオオカミ+オオカミ {北風と北風} ※【R15】
(朝vsジノvsスザ×ルル)  2009.01.31 up
オオカミとオオカミ+オオカミ {予期せぬ露見} ※【R15】
(朝vsジノvsスザ×ルル)  2009.01.31 up

せめてこの想いだけは… {1} ※【R18】
(スザ×ルル→朝)  2009.02.02 up
せめてこの想いだけは… {2} ※【R18】
(スザ×ルル→朝)  2009.02.05 up
せめてこの想いだけは… {3} ※【R18】
(スザ×ルル→朝)  2009.02.11 up

君の隣は誰の物?
(朝vsジェレ×ゼロ / 朝比奈顔バレ)  2009.05.05up


<朝ゼロ>

温泉での心得 {前編}
(朝ゼロ / 一部の幹部・朝比奈、顔バレ)  2009.01.03 up
温泉での心得 {中編} ※【R18】
(朝ゼロ / 一部の幹部・朝比奈、顔バレ)  2009.01.04 up
温泉での心得 {後編} ※【R18】
(朝ゼロ / 一部の幹部・朝比奈、顔バレ)  2009.01.05 up

攻略せよ ※【R18】
(朝ゼロ / 朝比奈顔バレ)  2009.01.18 up

ナイトオブレンジャー誕生!!
(朝ゼロ / 一部の幹部・朝比奈顔バレ)  2009.04.26up

意地っ張りな恋人
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.05.24up
不器用な恋人
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.06.01up
魅力的な恋人 ※【R18】
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.06.07up
意地悪な恋人 ※【R18】
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.07.05up
欲張りな恋人 ※【R18】
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.07.27up
子供好き?な恋人 ※【R15】
(朝ゼロ / ※ゼロ女体化)  2009.11.08up


<朝ルル>

喪わせてはいけない
(朝ルル / R2 25話妄想)  2008.10.24 up

其れは、君を奪うための合図 {前編} ※【R15】
(朝ルル / 朝比奈ゼロバレ)  2008.09.17 up
其れは、君を奪うための合図 {後編} ※【R18】
(朝ルル / 朝比奈ゼロバレ)  2008.09.17 up

黒の皇子 黒の騎士
(朝ルル / 皇族設定)  2009.12.21 up
黒の皇子 黒の騎士 【02】
(朝ルル / 皇族設定)  2010.01.02 up
黒の皇子 黒の騎士 【03】 ※【R18】
(朝ルル / 皇族設定 ※?×ルル表現あり) 2010.04.04up
黒の皇子 黒の騎士 【04】
(朝ルル / 皇族設定)  2010.05.05
黒の皇子 黒の騎士 【05】
(朝ルル / 皇族設定)  2010.07.17up
黒の皇子 黒の騎士 【06】
(朝ルル / 皇族設定)  2010.08.15up
黒の皇子 黒の騎士 【07】
(朝ルル / 皇族設定)  2010.09.12up
黒の皇子 黒の騎士 【08】
(朝ルル / 皇族設定)  2011.01.03up



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≪長編≫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大好きはさよならの合図 {1}
(朝ルル)  2008.09.20 up
大好きはさよならの合図 {2}
(朝ルル)  2008.09.20 up
大好きはさよならの合図 {3}
(朝ルル)  2008.09.20 up
大好きはさよならの合図 {4}
(朝ルル)  2008.09.22 up
大好きはさよならの合図 {5}
(朝ルル)  2008.09.23 up
大好きはさよならの合図 {6}
(朝ルル)  2008.09.24 up
大好きはさよならの合図 {7} ※【R15】
(朝ルル)  2008.09.26  up
大好きはさよならの合図 {8}
(朝ルル)  2008.10.05  up
大好きはさよならの合図 {9}
(朝ルル)  2008.11.01  up
大好きはさよならの合図 {10}
(朝ルル)  2008.11.03  up (11.13一部修正)
大好きはさよならの合図 {11}
(朝ルル)  2008.11.09  up (11.13一部修正)
大好きはさよならの合図 {12}
(朝ルル)  2008.11.19  up
大好きはさよならの合図 {13}
(朝ルル)  2008.11.24  up
大好きはさよならの合図 {14}
(朝ルル)  2008.11.30  up
大好きはさよならの合図 {15}
(朝ルル)  2008.12.03  up
大好きはさよならの合図 {16}
(朝ルル)  2008.12.14  up
大好きはさよならの合図 {17}
(朝ルル)  2008.12.21  up
大好きはさよならの合図 {18}
(朝ルル)  2008.12.24  up
大好きはさよならの合図 {19}
(朝ルル)  2009.01.01  up
大好きはさよならの合図 {20}
(朝ルル)  2009.01.06  up
大好きはさよならの合図 {21}
(朝ルル)  2009.01.12  up
大好きはさよならの合図 {22}
(朝ルル)  2009.01.20  up
大好きはさよならの合図 {23}
(朝ルル)  2009.02.07  up
大好きはさよならの合図 {24} ※【R18】
(朝ルル)  2009.02.09  up
大好きはさよならの合図 {25}
(朝ルル)  2009.02.15  up
大好きはさよならの合図 {26}
(朝ルル)  2009.02.22  up
大好きはさよならの合図 {27}
(朝ルル)  2009.03.08  up
大好きはさよならの合図 {28}
(朝ルル)  2009.03.15  up
大好きはさよならの合図 {29}
(朝ルル)  2009.04.13  up
大好きはさよならの合図 {30}
(朝ルル)  2009.04.16  up
大好きはさよならの合図 {31}
(朝ルル)  2009.04.20  up
大好きはさよならの合図 {32}
(朝ルル)  2009.04.30  up
大好きはさよならの合図 {33}
(朝ルル)  2009.05.10  up
大好きはさよならの合図 {34}
(朝ルル)  2009.06.20  up
大好きはさよならの合図 {35}
(朝ルル)  2009.07.04  up
大好きはさよならの合図 {36}
(朝ルル)  2009.08.10  up
大好きはさよならの合図 {37}
(朝ルル)  2009.08.14  up
大好きはさよならの合図 {38}
(朝ルル)  2009.08.30  up
大好きはさよならの合図 {39}
(朝ルル)  2009.09.13  up


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≪拍手御礼SS≫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゼロはスタイリスト? {前編}
(朝ゼロ / 朝比奈、顔バレ)  2009.09.29 up

猫姫様の恩返し【01】
(朝(飼い主)ルル(猫))  2010.09.23 up

By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 11:32 | CM : 0 | TB : 0
2011年01月03日

 

「黒の皇子 黒の騎士」 【08】 

 

 

      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

 

 

クロヴィスが殺害されてから一ヶ月。人々の口からゼロの名が上がらぬ日はなかった。

その正体はいずれとして分からず、人種も出自も全てが謎なままで。

クロヴィスを皮切りに、ブリタニア皇族が立て続けに命を落としていた。ナイフで自刃した者。部屋から転落した者。突然の事故に巻き込まれた者。

一見、無関係に思われるその全てにゼロが関わっていると、まことしやかに流されている噂。

その噂を信じてしまうほど、ブリタニア皇族に立て続けに起こる不幸は、もはや異常の域へと達していた。

ブリタニア人には恐怖を、日本人には不安の中に垣間見える羨望の念を。

人々に様々な感情を抱かせているゼロの行動の真意は依然掴めていなかった。

 

 

「どういうことだ!これは」

 

藤堂が低く唸る。凝視した画面の向こうではまた一人皇族が犠牲となっている。

名誉ブリタニア人となった日本人を騎士に任命し世間を騒がせた皇女、ユーフェミア。

公務の途中で凶弾に倒れたと、騒然とした現場で金切り声を上げるリポーターの声が耳障りだった。

野次馬のように群がった人々が紡ぐのは、ただ一つの名。

(ゼロ、やはり君なのか…)

溜息が零れる。分からない。皇族を殺し続ける男が何故自分を助け出したのか。

目に焼き付いているほっそりとした肢体。とても戦慣れした男とは思えなかった。

むしろ少年に見えるほど華奢だったのに。

何故こうも簡単に、警備に守られているはずの皇族を手に掛けることができるのか。

そして彼は、自分に何を求めているのだろう?

共闘、それとも――。

 

「藤堂さん!」

「…ッ!朝比奈か」

 

扉をやや乱暴に開け入ってきた男に視線を向ける。その朝比奈は強張った顔で画面を凝視している。

「また、誰か殺されたんですか…?」

「ああ。…ユーフェミアだ」

「え…、枢木スザクの…」

 

それだけを呟くと、絶句したように立ち尽くす。表情を失くして空を見遣るその瞳は暗く沈んでいた。

 

「朝比奈?」

 

そんな様子が気になって、思わず藤堂が声をかける。だが、返事はない。

噛み締めた唇から零れるのは沈黙。噛み殺しているのは怒りか、それとも――?

 

「ゼロ…」

 

そう呟いたきり押し黙るその唇が、音もなく空気を揺らした。誰の目にも触れることなく、ルルーシュ、と。

そしてもう一度引き絞られる口元。それは決意を秘めたようで。

 

「藤堂さん…」

 

静かな声。だからこそ、伝わる真摯な想い。

 

「何だ?」

「…俺は藤堂さんを尊敬しています。四聖剣の皆も、大好きです」

「…朝比奈」

 

今まで自分を支えてきた絆、記憶。その中心に居たのは常に藤堂達で。

唇から零れたのは偽りない本心。

なのに、今から自分が取ろうとしている行動は、恐らくそれに反したものとなる。

そう分かっているのに、突き上げるように朝比奈を支配するこの情動は何と呼べばいいのか。

認めたくはない。だが、無視するにはあまりにも大きく育ちすぎていて。

 

「ゼロに心当たりがあります。…もし俺が戻ってこなかったら、切り捨ててください」

「朝比奈!犬死にするつもりか!?」 

「いえ、…でも次に会うときは殺される時かもしれませんね」

 

穏やかな笑みと共に返された言葉は、不吉な色を帯びている。
あくまで落ち着いた声音だからこそ分かる。

朝比奈の秘めたる決意の強さを。

 

「遂げて来い。お前の選んだ道を」

 

しばしの沈黙の後、溜息ともに零れた声はあたたかい。

見つめた藤堂の表情には諦めと愛情が混ざったような笑み。

 

「…ありがとうございます」

 

くしゃりと崩れた表情は泣き笑いのよう。

 

「行ってきます」

 

一歩、また一歩。

大切な場所から離れてゆく。選んだ道へと。

消えてゆく朝比奈の背中に、もう迷いはない。

 

胸を占めている苦しみにも似た想いは、ただ一人だけを求め、朝比奈を突き動かしていた。

 


By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 11:24 | CM : 6 | TB : 0
2010年09月12日

「黒の皇子 黒の騎士」 【07】 


 


 


      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。


 


 


朝比奈がルルーシュと離れて、数か月。


反ブリタニア勢力の抵抗は未だ止むことはない。だが、ブリタニアに打撃を与えるには小規模すぎて、朝比奈達のジレンマも増していた。


藤堂を助け出すことも、ルルーシュを殺すことも出来ない四聖剣の苛立ちを嘲笑うかのように。日々だけが過ぎてゆくのだった。


 


 


「……」


 


隣に座る朝比奈を盗み見る。そんな卜部の視線にも本人は気づかない。


あの屋敷から戻ってから、表面上は滞りなく四聖剣としての生活が戻ってきていた。


だが、決して元通りではないことは誰もが気付いている。


朝比奈は時折考え込むことが多くなった。


何故騎士になったのか。何故あの屋敷に居続けたのか。


あの時のルルーシュの言葉を信じるには説明が不十分だったが、屋敷に居た時のことを朝比奈は何も語ろうとはしなかった。


四聖剣の中で、時にムードメーカーとなっていた明るさはすっかり影を潜め、物憂げな視線を空へと投げては溜息をつく。


急に大人びた表情をするようになった。…大人を捕まえて言う台詞ではないが。


あの屋敷での生活が朝比奈を変えたことは間違いなかった。そして、その原因がルルーシュにあることも。


 


「失礼しますッ!」


四聖剣が揃ったにしては静寂すぎるこの部屋の沈黙を破ったのは、不作法に開け放たれた扉と共に飛び込んできた部下の姿であった。


 


「どうした!?」


 


転げるように部屋へと走り込んだ部下は息を切らせて、四聖剣を見つめる。この急ぎ様は尋常ではない。


まさか敵が侵入したのか?


弾かれたように立ち上がった四聖剣は互いの視線を交わして頷き合う。しかし緊迫した室内に流れたのは意外な言葉であった。


 


「クロヴィスが殺害されました」


「何!?」


 


ブリタニア皇族の一人、シュナイゼルの異母弟で、ルルーシュの異母兄。皇族に手を掛けたというのか。


 


「誰だ?日本人か?」


「いえ…わかりません」


「わからない?どういうことだ?」


 


皇族を殺した男の正体もわからないとは。それ程の手練れだったのか。


予期せぬ事態に動揺が走る。皆の視線を一身に受けた男は、震える声で言葉を続いた。


 


「仮面を被っていたそうで、…ゼロと名乗ったと」


「ゼロ…」


 


聞き覚えのない名前。この男は果たして日本の味方なのか。敵なのか。


新たな反ブリタニア勢力の出現に、四聖剣は戸惑いを隠せなかった。


(ゼロ…日本人?それとも……)


手を取るべきか。それとも目的は別にあるのか。


もし彼が変わらぬ状況を打破する存在となるのならば、今動かなければ時期を逸してしまう。


これは好機となるのか。それとも――。


 


予期せぬ情報に思わず押し黙った卜部達は、開け放たれたままの扉への意識が薄れていた。


扉の向こうから近付いてくる微かな足音。僅かに引き摺るようなその音はゆっくりと大きくなってくる。


廊下を木霊するように、徐々に大きくなるざわめき。それは驚愕と歓喜の色を孕んでいて。


 


そして――――。


 


「皆、すまなかった…」


「!!??」


 


懐かしすぎる声は酷く掠れていて。


弾かれたように振り返った四聖剣の視線の先。やつれながらも精悍な雰囲気を保った男の姿があった。


 


「藤堂さん!!」


「藤堂中佐!」


(信じられない…)


あんなに救出を願っていた存在が此処に居る。嬉しさのあまり愕然と立ちつくす皆を見回し、藤堂が苦笑する。


 


「どうした?幽霊などではないが…」


「いえ!よくご無事で…」


 


驚愕で凍りついていた空気が徐々に緩んでゆく。安堵の表情でそう呟いた千葉の傍らで、朝比奈にも久々の笑顔が浮かんでいた。


 


「びっくりした!でも、どうして?…っていうか、どうやって抜け出せたんですか?」


「自力で、と言いたい所だが…情けない。突然男が現れて、俺を逃がせと見張りに命じた」


「男?」


「ああ。不思議なことに、突然その男の言い成りになった」


 


(…え?)


今でも腑に落ちないのかそう呟いて眉を寄せる藤堂を見つめる朝比奈の瞳に一瞬影が過ぎる。


(何故か、言い成りに…)


錯覚。あの日の己の姿が胸を過ぎる。


刺客として潜入したはずのあの屋敷で、気がつけばルルーシュの前で膝を折っていた。


あの時朝比奈の瞳に映ったのは、紫の空を羽ばたく、紅い鳥。


 


「その男はどういう――日本人ですか?」


「いや、わからん。仮面をしていたからな」


「仮面!?まさか――」


「ゼロ。そう名乗っていた」


「…ッ!?」


 


四聖剣の予想通りの名。千葉が目を見開いた。


皇族殺しの犯人と、藤堂の救出を助けた人物が、同じ。


それは決して偶然ではないだろう。だが、その目的は?


 


「ゼロ…クロヴィスを殺した奴ではないか!」


「何故藤堂中佐を助けたのだ?」


 


口々に疑問をぶつける四聖剣達に答えられる者は居ない。


そんな中、沈黙を保ち。ただ空中を見つめる朝比奈の瞳は、暗く沈んでいたのだった。





By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 18:05 | CM : 2 | TB : 0
2010年08月15日

「黒の皇子 黒の騎士」 【06】 

 

 

      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

 

 

空気が凍るような静寂の中。

金属のぶつかり合う硬質な音が空気を裂いた。

 

「――ッ!?」

「ルルーシュ様!」

 

舞い降りたように、突如二人の間に割り込んだ影。

朝比奈の刃はその男によって食い止められ、ルルーシュの身体を捕らえることは叶わなかったのだ。

弾かれた剣を再び構えた朝比奈の表情には警戒の色が浮かんでいる。

 

(誰――?)

 

「ジェレミア!」

 

掠れたルルーシュの声が、朝比奈の問いへの答えとなった。

 

(ジェレミア…ブリタニアの軍人)

 

異様な出で立ちの男だ。金属性の仮面が片目を彩り、その腕も重厚そうな装具に包まれている。

ルルーシュを護るように自らの身体を盾にし、朝比奈と睨みあうその様子はまさに「騎士」そのもので。

 

(…俺なんかよりよっぽどいい、か)

 

ルルーシュが騎士である朝比奈を必要ないと言ったのは、こういうことだったのか。

ストン、と朝比奈の中でパズルのピースがはまってゆく。

そう、簡単なこと。

退屈しのぎに目に付いた朝比奈を騎士にしてみたものの、遅れてきた真打の登場でお役御免になった。

それだけのことだったのだ。

ブリタニアの軍人ならば、日本人の朝比奈のように憎しみを抱いているわけではない。

命を狙うなど、以ての外。むしろ敬愛の念を持って責務を全うしようとするだろう。

――どちらを選ぶかなんて明白だ。

だけど。

 

(大人しく諦める訳にはいかないよ)

 

執着か、憎しみか。もう割り切れないほど朝比奈はルルーシュに関わりすぎていた。

乱された感情はただ一人の少年へと向かってしまう。

 

「……ッ」

 

殺気に彩られた影が再び空気を揺らし、応えるように激しい金属音が鳴り響く。

剣が交差する先、二人の鋭い瞳がぶつかり合う。

 

「…ジェレミア!あれを」

 

緊迫した室内。突如二人の間に割って入ったルルーシュの声。まるでそれは何かの合図のようで。

警戒するように睨みつけた先、ジェレミアの瞳が突然、異質な物へと変化する。

 

「何!?」

 

頭を貫かれたような錯覚。意識に直接介入されたかのような不快感は、今まで経験したことがない。

一瞬、意識が飛んでゆく。思わず片膝をついた朝比奈は、何かを確かめるように額を押さえた。

(痛い…、苦しい…?)

不快感の後に現れた喪失感。

何が起きたのか分からない。ただ、何かが起きたことは、分かった。

 

「朝比奈」

「……」

 

のろのろと顔を上げた朝比奈の視線が声の主を捕らえる。

 

「お前に掛った呪いはジェレミアが解いた」

「…え?」

「茶番は終わりだ。…何処へでも消えろ」

 

冷たい声。切り捨てるような、凍る瞳だけを残して。背中を向けたルルーシュの姿が扉へと消えた。

影のように続いた男が室内から消えて初めて、朝比奈は全てが終わったことを悟った。

 

(もう、許されない)

 

ルルーシュの隣に立つことも。…その視界に映ることさえも。

 

「朝比奈…」

 

放心したかのように立ち上がることのできない朝比奈の腕を、支えるように伸ばされた手。卜部だった。

屋敷を後にする朝比奈達に向けられる追手の姿すらない。

この屋敷に侵入した時と同じく。朝比奈の毎日が大きく変えられようとしていた。

元に戻ったはずなのに。

ルルーシュが居ない。その現実がこんなにも朝比奈を惑わせている。

(もう、戻れないや…)

元になんか戻れない。前と同じにはなれない。もう、出会ってしまったのだから。

執着や欲望、憎しみさえ。何もかも朝比奈に残したままルルーシュは去った。

突然の終幕に戸惑う朝比奈だけを置き去りにして――。

 

 

 

「ジェレミア」

「はい、ルルーシュ様」

「何故止めた?」

 

鋭い瞳で問い質す主を見つめる視線に反省の色はない。さも当然を責められるのは可笑しいとでも言わんばかりの余裕。

気に入らない。不機嫌そうに目を細めたルルーシュが思わず舌打ちした。

 

「可笑しいことを仰るのですね…あの男に殺されたかったのですか?」

「……」

 

返事は肯定の証。そう言ったのは誰だったか。

言葉を紡ぐことの出来ないルルーシュは苛立ちを隠しきれず、忌々しげに視線を反らせた。

 

「ルルーシュ様、何故…あの男だったのですか?イレブンを騎士にしなくとも、私が全力でお守りすると申し上げたはず――」

「…誰が守れと言った?」

「ルルーシュ様?」

 

噛み締めた唇から零れた低い声は酷く掠れていて。

訝しげに眉を寄せたジェレミアを一瞥すると、興味を失ったかのようにジェレミアを置いて歩み出す。

 

「お前には無理だ」

 

その呟きだけを残して。

 

(お前は出来るのか?…俺を憎み、殺すことが)

空気が止まったあの瞬間。ルルーシュの願いは聞き届けられたはずだった。

炎のように揺らめく、あの憎しみに満ちた目に貫かれるはずだった。

朝比奈の苦悩に気づかなかった訳ではない。

ギアスの所為で、無意識に。敵である自分の傍らに在り続ける男に生じた歪みには、おそらく本人よりも先に気づいていた。

憎しみ、そしておそらく主への執着心。本人の意思を飛び越えて溢れ出す感情は徐々に朝比奈を蝕んでゆく。

壊れる前に手放す。そして手放す前に賭けを終わらせる。

もう猶予はない。これが最後の機会だった。

(なのに――ッ)

ルルーシュがこれから歩むだろう血色の道を、切り裂いてくれるはずの剣を失った。

朝比奈を壊したかった訳ではない。

賭けの意味。ギアスを掛けた自分がもう片方の可能性を望んでいたことに、朝比奈は気づいただろうか。

無理やり閉じ込めた獲物が狂う前に、自らを喰い尽くしてくれることを望んでいたことに。

(もう、ゲームセットだ…)

好機を逸したゲームは呆気なく幕を下ろした。自ら命じた、ジェレミアのギアスキャンセラーの力によって。

(朝比奈…)

ルルーシュに残されたのは。兄の体液に塗れる日々と、やがて訪れる血塗られた世界だけ。

 

またひとつの歯車が、動き出そうとしていたのだった――。




By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 00:55 | CM : 2 | TB : 0
2010年07月17日

「黒の皇子 黒の騎士」 【05】 

 

 

      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

 

 

あの男の言いなりになるルルーシュなど見たくはなかった。

あの白い肌を赤く濡らすのは、ぬくもりを奪うのは自分でなければならない。

これは独占欲なのか。それとも獲物への執着心なのか。

はっきりと名前のつかないどす黒い感情は、不意に暴れ出しては朝比奈を苦しめていた。

ルルーシュとの賭けはまだ終わっていない。

ルルーシュを殺すか、己が壊れるか。

その答えは前者でなくてはならない。…ルルーシュは敵国の皇族なのだから。

 

 

 

「!!」

 

何かが割れるような激しい音が耳を貫く。その方角は今、まさに朝比奈が向かおうとしていたルルーシュの部屋で。何かに突き動かされるまま反射的に走り出した。少しの距離が物凄く長く思えて、焦りが募る。

 

「ッ…!何!?」

 

勢いよく扉を撥ね退け駆け込んだ朝比奈の目に飛び込んできたのは、複数の影。先頭に立ちこちらを見据えている男の顔に、思わず息を呑んだ。

 

「卜部さん…」

 

見覚えがある、どころでは済まない。

鋭い瞳で朝比奈を見つめるのは、共に背中を預けて祖国の為に戦った同志。

だが、その表情に友好的な色合いはなかった。

張りつめた空気の中、一つだけ異質な雰囲気を纏った少年の言葉がやけに大きく響いた。

 

「ようやく仲間のお出ましだな、朝比奈。よかったじゃないか」

 

足元に散らばる破片を踏みしめながら椅子から立ち上がるルルーシュの表情に恐怖の色はない。焦る様子もなく笑みすら浮かべて朝比奈を見遣った。その姿には命を狙われている危機感すら垣間見られない。

大きく割れた窓ガラスから入り込んだ風がカーテンを揺らす。場違いに爽やかな空気が部屋を満たした。

 

「…どういうことだ?」

 

放たれた言葉の意味を量りかね、卜部の眉がきつく寄せられる。だが、朝比奈も同じ想いだった。

ルルーシュの意図が読み取れない。

己への刺客を目の前にして朝比奈へと喜びの言葉を口にし、悠然と佇んでいる。自ら得たはずの騎士に身を守らせることすらせずに。

 

「お前らはコイツの仲間だ。コイツを救出し、そして今度こそこの俺を殺しに来たのだろう?」

「…何を言う。朝比奈はお前の騎士なんだろ?テレビで見たぜ」

 

不可解な謎掛けに困惑したかのように、卜部が呻く。背後に控える千葉と仙波の表情も戸惑いを隠し切れていなかった。

自分の懐に入れたも同然の「騎士」という存在と刺客を、仲間だと言うのか。己の側にいるはずの朝比奈を。

 

「あぁ、そうだ。俺の騎士にした。コイツにとっても好都合だろう?近くに居ればいつでも寝首をかけるだろうからな」

「!!」

 

「殺したければ殺せと言ってある。機会を窺っていただけだ。…無闇な仲間割れは見苦しいぞ」

 

(どういうこと…?)

 

茫然とルルーシュを見つめる朝比奈を余所に、ルルーシュの言葉は止まらない。

己の盾となれと命じないばかりか、朝比奈の擁護とも思えるその発言に、案の定卜部は大きく目を見開いている。

 

「あんたの言葉は少しも理解できない。殺す?…騎士とは主を守る者じゃないのか?」

「違う」

 

思いもよらない否定の言葉。千葉の表情が虚を突かれたように固まる。

 

「……え?」

「俺はそんなものは欲しくない」

「……ッ」

 

朝比奈の身体が小さく揺れた。

そう言ったきり、口を噤んだルルーシュは静かに前を見据えている。その真意は読めなかった。

 

「要らない?…じゃ、何で俺を騎士にしたわけ?」

 

呟きにも似た、抑えた低い声が沈黙を乱す。

 

(なんで、俺に騎士になれって言ったの?あんな賭けまで持ち出して)

 

悲しみなどではない。怒りにも似た負の感情が体内に渦巻いていた。

騎士にされた理由など分からない。だが何かしら理由があるのだと思い込んでいた。

たとえそれが暇つぶしだったとしても。

なのに、要らないと言う。ただ一人で振り回されていただけだというのか。

 

(俺、何言ってんだろう?馬鹿みたいだ…)

 

しかし、そんな朝比奈とて己の矛盾に気づいていた。騎士という言葉と自分。あまりにも掛け離れた現実に。

主が犯されていても助けもせず、あまつさえ命さえ狙う自分は騎士にすら値しない。

いつ自分が騎士らしいことをしたというのか。

ルルーシュと自分の間にあるのは馬鹿げた賭け一つ。

そんな状態で怒る権利などないのに、何故。こんなにも腹立たしいのか。

 

「朝比奈、何を怒っている。…好都合じゃねぇか、皇子様はお前に助けられることを望んでいない。今こそ日本国民の恨みを果たすべき時だ!」

 

朝比奈のぐちゃぐちゃの感情の意味など卜部にはわからない。…本人にすらわからないのだから。

ルルーシュと自分を繋ぐ確かなものは、ただひとつ。あの契約しかなくて。

この少年を…ブリタニアを憎み戦っていた朝比奈を不可解な感情へと陥れた元凶を殺せば、この苛立ちと苦しみから解放されるのだろうか。

…体内に巣食い、根を張り続ける感情が朝比奈を食い殺す前に。

 

「……」

 

日本人としての恨み。ブリタニアへの憎悪。今まで刀を取ってきた理由はそれらが全てを占めていた。

 

「ルルーシュ…」

 

とてもストレートで、だからこそ強くもあるブリタニアへの敵意が今までの朝比奈を支えていたのに。

今、ルルーシュを見つめる朝比奈の瞳に揺れる炎は暗く、複雑な色を帯びていて。

 

「朝比奈…」

 

燻ぶる炎がついに引鉄を操る。

ゆらりと動き出した影。ゆっくりとルルーシュに近づいてゆく朝比奈に、卜部が息を詰める。

鈍い光をその手に携え、標的との間合いを詰めていく朝比奈を、静かに見返す紫の瞳。

張りつめた空気の中、飛び散ったガラスを踏みしめる音がやけに大きく響いた。

 

(この賭けは、俺が終わらせる――)

 

この手で全てを終わらせることが。

この手で全てを奪うことが。

己が己で居続けられる術だというのなら。

そして、手に入るものが命だけというのなら。

 

「…俺の勝ち、だね」

 

紫の光に引き寄せられるように刀が空を舞い。

 

――そして、全ての音が消えた。



By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 23:20 | CM : 2 | TB : 0
2010年05月05日

「黒の皇子 黒の騎士」 【04】 

 

 

      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

 

 

まるで揺れた水面のように。

次々と変化する色合いに戸惑い、悩み、立ち尽くす。

傲慢で、強引。全てを諦めたかのような冷めた瞳。そして次の瞬間消えてしまいそうな、脆さ。

どれが本当の姿を映しているのか。分からない。

(何で、こんな……)

思考はただ一人へと繋がってゆく。

憎いはずなのに、目が離せなくなる。知りたくないはずなのに、引き込まれる。

動けなかった。――あの紫の瞳に囚われたように。

 

 

シュナイゼルの姿が消えて、異様な静寂に包まれた廊下。しかし、朝比奈は立ち尽くしたままいまだ動けずに居た。

 

「……ッ」

 

悔しさか、戸惑いか、怒りか。噛み締めたままの唇ときつく寄せられた眉は、普段、何処か子供っぽくさえも思える朝比奈らしからぬ表情で。

ルルーシュを凌辱したシュナイゼル。組み敷かれるまま鳴いていたルルーシュ。そして助けることも出来なかった自分。

何に、誰に、苛立っているのか。

頭で理解するよりも先に、不快な感情が渦巻いては朝比奈を苦しめていた。

騎士は主を守る者。…内にどんな負の感情を秘めていたとしても。

その点で朝比奈は完全に失格だ。同じ邸内に居ながらシュナイゼルの蛮行の中へルルーシュを置き去りにしたのだから。

いくらルルーシュに退室を求められたとしても応じるべきではなかったのではないか?

本末転倒だ。主の命に従って、肝心の主を危険に晒してどうする。

 

(……主?)

もやもやした気分のまま自問自答を繰り返していた朝比奈の思考が、ふと止まる。

訝しげに顰められた眉。当たり前のように繰り返していた言葉に、不意に引っかかった。

(俺は、ルルーシュを主だと…?)

愕然とする。

気が付いたら跪いていた。日本人の誇りを地に落とした、そんな身体が己を呪いながらも、ルルーシュの命を奪う為、この場を去らなかった…はずだった。

なのに、先程から自分は何だ?

ルルーシュがシュナイゼルに汚されたことにショックを受けている。…シュナイゼルに憎悪を覚えてしまう程に。

そして大人しくシュナイゼルに組み敷かれていたルルーシュに絶望している。

ルルーシュを殺すほど憎いのならば、狂気じみた兄弟の情事を嗤いつつこの場を去ればいい。

何故こんな場所で立ち尽くしている。目の前の部屋の中に入ることも、己の部屋に戻ることもせず。

 

「……」

 

(君は俺に…何を、したんだ?)

自分のことなのに。もう訳がわからない。

自分の身体が支配されたかのように感じる瞬間。ルルーシュの言動に掻き乱される思考。

説明が出来ないほど、朝比奈はルルーシュに振り回されている。

(側に居るのは、慣れ合う為じゃない。…殺す為だ)

懐に入って機を窺うどころか、様々な色を見せる少年に気づけば視線が吸い寄せられている。

焦りと違和感が胸に巣食う。

 

「…ッ!」

 

微かな音。ハッと我に返った朝比奈の目の前でゆっくりと開かれる扉。

白いワイシャツを羽織るように身に付けたルルーシュの視線が、朝比奈の上で留まる。

シャワーでも浴びようとしたのであろうか。

拭いきれない気だるげな雰囲気が、室内で起こったことを容易に想像させた。

 

「何だ…?お前も、交ざりたかったのか?」

 

目を見開き驚きの表情を見せたのは、ほんの一瞬。

皮肉げに口元を歪ませ、目の前の男を挑発的に見上げる。揶揄する言葉に朝比奈の瞳が鋭くなる。

行為の余韻を隠そうともせず、当然のことのように振る舞う少年に苛立ちが募ってゆく。

 

「…何で、抵抗しないの?」

 

零れ落ちたのは、低く問う声。

一瞬、絡み合う視線。先に逸らしたのはルルーシュだった。

 

「趣味だ」

「!?」

「…と言っておけば納得するのか?」

 

予想外の言葉に息を呑んだ朝比奈を小馬鹿にするかのように。言葉を投げると背中を向け、遠ざかってゆく。

 

「………ッ」

 

まんまと動揺した朝比奈は思わず溜息をつき、くしゃりと髪を掻き混ぜた。

返ってこなかった答えを解く鍵は、シュナイゼルとのやりとりしかない。

語られたのは、一つの名前。

(――ナナリー。確か、ルルーシュの妹の名前……)

この日本には、この屋敷にはルルーシュしかいない。おそらく本国で暮らしているはずだ。

シュナイゼルの放った言葉が真実を映しているとしたら。彼女があの行動の理由となるのか。

 

『――お前の大事なナナリーは、私の籠の中だ。…わかっているね?』

 

シュナイゼルの声が不意に蘇る。傲慢に所有を宣言したあの声が。

 

「ルルーシュは誰にもやらない。…俺が、殺す」

 

無意識に握られた拳。

不快感に歪められた唇から零れ落ちた呟きは、ひどく掠れていた。

 



By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 23:33 | CM : 4 | TB : 0
2010年04月04日

 

 

「黒の皇子 黒の騎士」 【03】 ※【R18

 

 

      ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

      朝ルル以外の表現があります。苦手な方はお読みにならないでください。

      この作品は【R18】です。18歳未満の方は絶対にお読みにならないでください!

 

 

 

『ゲームだと思えばいい。俺を殺すか、…お前が壊れるか』

 

暗殺を目的として忍び込んだはずなのに。

何故その言葉が、いやそんな言葉を放ったルルーシュのことが許せないのだろうか。

答えはまだ、見えない――。

 

 

「おい」

「…・・・」

「おい、朝比奈」

「…何?」

「付いて来い」

 

取り留めのない思考から揺り戻されて、ようやく顔を上げた朝比奈は顎で示すようにして室外へと促される。

――せめて何処に行くかくらい言えばいいのに。

高慢な態度に少しむくれながら、のろのろとルルーシュの後に続いて廊下に出る。

付いてくるのが当然とでもいった風に、ルルーシュは背後を確かめる素振りすらない。

…つくづく嫌味な奴だ。

 

「で、俺は君を何て呼べばいいわけ?殿下?それともルルーシュ様?」

 

むしゃくしゃした気分そのままに。

少し挑発的な物言いを背中に投げかけると、前を行くルルーシュがちらりと振り返る。

が、すぐに興味が無さそうに視線を逸らす。

 

「好きに呼べ」

「…・・・じゃ、ルルーシュ」

「……」

 

どうにでもなれ、と思わず呼び捨てにしていた。

皇族に敬称すらつけないのだ。さぞかし不愉快だろう。そう思った朝比奈の心情とは裏腹に。

肯定も否定もせず再び前を向いたルルーシュは、怒鳴ることもなく無言で歩を進める。

そんなルルーシュに対して拍子抜けるしかない。

 

「…ねぇ?」

「……何だ?」

「俺、呼び捨てたんだけど」

 

聞こえてなかったのか。あまりの無反応ぶりに不安になり、思わず自己申告をしてしまった。

(皇子様が「イレブン」に、だよ?)

なのに。この反応は、一体。

 

「好きに呼べと言ったはずだ」

 

何を馬鹿なことを、といった視線を投げられ唖然とした。そちらこそ馬鹿じゃないの?と思う。

 

「時間の無駄だ。早く来い」

 

硬質な声が朝比奈の戸惑いを切り捨てるように放たれる。

足早に去っていく背中を呆然と見つめていた朝比奈は、遠くなる影に気づいて後を追うのだった。

 

 

「遅かったね、ルルーシュ」

「…シュナイゼル兄さん」

 

ルルーシュから遅れて足を踏み入れた室内。

客間の中央に置かれたソファに悠然と座る男の姿に、朝比奈は思わず息を呑んだ。

(アイツは…、まさか……)

鮮やかな光を纏い、優美な所作でルルーシュへと手を差し伸べるその男は、見紛うべくも無い。

ブリタニア帝国第二皇子、シュナイゼルであった。

いつの間に日本へとやってきていたのか。そして何故、供の者もつけずに寂れたルルーシュの屋敷に居るのだろうか。面食らう朝比奈を置き去りにして、兄弟の会話は続く。

 

「そのイレブンが、噂の騎士だね」

「…ええ」

 

促されるようにシュナイゼルの傍らへと歩み寄ったルルーシュの腰を引き寄せる腕。されるがまま立ち尽くす細い身体越しに向けられた視線に、朝比奈の胸がざわつく。

(何、これ…?)

高貴な微笑みを湛えたその表情とは裏腹に、その瞳は朝比奈を射抜くように、冷たい。狂気にも似た危うさを孕んだその目は、朝比奈の存在を決して許してはいない。それだけはわかった。

 

「久しぶりの兄弟の再会だ。少しの間、君の主を私に預けてくれないかい?」

「…・・・」

「…下がれ、朝比奈」

 

本能的な何かなのか。シュナイゼルの言葉に素直に頷けなかった朝比奈は沈黙しか返せない。そんな彼をルルーシュの声が退室を促す。それは全てを押し殺したような、低く静かな声で。

 

「……」

 

無言のまま部屋を後にする朝比奈が最後に目にしたのは、囚われるように細い腰を抱き寄せられたまま、シュナイゼルを見下ろすルルーシュの華奢な背中だった――。

 

 

 

「……遅い」

 

追われるように自室へと戻って数刻。

壁に据え付けられた時計を見遣り、何度目かわからない溜め息を漏らした。

ついて来いと言ったかと思えば、下がれという。気ままな主の命に振り回された朝比奈は、すっかり自分のペースを崩されたまま苛立ちを噛み殺せずにいた。

一人で居られて、せいせいする。そう思うはずの朝比奈の胸中は複雑だった。

(あ〜…もー!何だってんだ、これ…)

ごろりと寝返りを打つ。

ルルーシュと異母兄弟のシュナイゼルの来訪。

朝比奈とは関係が無いはずのその状況が何故、こんなにも朝比奈を惑わせるのか。

シュナイゼルが見せた異様な雰囲気と、いやに従順すぎるルルーシュの姿がちらついて、離れない。

自分でも訳が分からない。どうでもいい、そう思えるはずなのに。

 

「……」

 

カチカチと、時を刻む音だけが部屋を満たす。何度目かの溜め息とともに朝比奈は寝転がっていた身体を起こした。

 

「水…喉渇いたし」

 

言い訳のようにそう言葉を紡いだ朝比奈の影が扉の向こうへと消えたのは、ルルーシュと別れて二時間後のことだった。

 

 

 

「……」

 

キッチンへと向かう途中に、あの部屋がある。

自然と気配を消そうとしている自分に気づいて苦笑する。

あの二人の何が気になるというのか。自ら問いかけてみても、その答えは見えなかった。

辿り着いた場所。頑丈であるはずの扉に僅かに生まれた隙間。

完全に空間を閉ざしてはいないその部屋から漏れているのは、室内の灯りと、兄弟の再会を喜ぶ会話。…その筈だった。

 

「ぁッ、やめ…ろ、もう―-

 

押し殺したような悲鳴が耳を打つ。朝比奈の脚が止まった。

(……ッ!!)

驚きの声を漏らさぬよう唇を噛んだ。

静かな廊下に零れてくる物音。絶えず奏でられる何かが軋むような音、それに呼応するかのように濡れた摩擦音が続く。

その答えが何か判らぬほど朝比奈も子供ではない。

拭えなかった不安はやはり真実となった。

(兄弟で…こんな)

シュナイゼルがルルーシュを犯している。

そして、きっとこれが初めてではない。ルルーシュの声に驚きの色はないのだから。

 

「……あんな駄犬を飼うなんて、何を企んでいるのかな?」

「別に、…何も」

「この私に隠し事か。悪い子には躾が必要なようだね」

「ぅ、…あぁ!」

 

一際大きい悲鳴が喉を突いた。ずちゅり、と濡れた音が響く。段々激しくなる音はルルーシュを苛んでいる証。

 

「悪戯は程々にしなさい。お前の大事なナナリーは、私の籠の中だ。…わかっているね?」

「くッ…、ぅ……」

「お前は私の可愛い人形だよ。…そうだろう?ルルーシュ」

「あッ、ああぁ――ッ!」

狂おしげに迸る悲鳴。一瞬の静寂の後、白い肢体が崩れ落ちるようにソファに沈んだ。

すぐには起き上がれないルルーシュを打ち捨てるように身を離し、シュナイゼルは残虐な侵略者から高貴な皇族へと変化してゆく。足元に無残に転がる獲物など見向きもせずに。

 

「行儀が悪いね。…主も犬も」

「……ッ」

 

動けなかった朝比奈の目の前で扉が開く。驚きなど微塵も無い、涼しげな顔で通り過ぎるシュナイゼルの唇から放たれた言葉。反射的に睨み付けてきた朝比奈に、笑みで唇を歪ませる。

相手にすらされてない。そんな屈辱に唇を噛み締める朝比奈を横目で見遣り、シュナイゼルは背を向けた。

 

「また来るよ、ルルーシュ」

 

そんな言葉だけを残して――。

 





By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 22:41 | CM : 2 | TB : 0
2010年01月02日

「黒の皇子 黒の騎士」 【02】

 

 

※ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。

 

 

「…何かあったのか」

 

思わず溜め息が零れた。卜部の呟きに皆の視線が集まる。

皆が抱いていた不安を言い当てられたようで。答えの代わりに沈黙だけが部屋を満たす。

 

「……」

 

朝比奈が帰ってこない。

夜の闇に紛れるようにアジトを出た朝比奈が、夜が明けた今、まだ戻っていないのだ。

連絡すらも無いまま、じりじりと夜を過ごした四聖剣の顔には疲労と不安の色が拭えない。

やはり危険すぎたのか。人目を避けたとはいえ一人に任せずに、皆で慎重に行えばよかったのか。

後悔すれど、時既に遅し。

不測の事態に陥ったことはもはや間違いなかった。

 

「このまま待っていても埒が明かん。我らも行くぞ」

「…だが、慎重にしなければ。これ以上の犠牲は――」

「…ッ!仲間を見殺しにするのか?」

 

同志を想うからこそ、判断に迷う。

焦りと苛立ちが冷静さを奪い始めていた。

そんな部屋の空気を切り裂くように突如鳴り始めた携帯の音に、ビクリと肩を揺らす。

慌てて取り出した画面を見ると部下からの通信。

 

「…どうした?」

「あの!画面をッ…テレビを、ご覧ください!」

「…テレビ?」

 

通話ボタンを押してすぐに切羽詰った部下の声が聞こえ、その内容に卜部が眉を寄せる。

 

「何だ?」

「テレビを見ろ、だと」

 

仙波からの問いに肩を竦めながら、取り合えず言われたとおりテレビの電源をつける。

ゆっくりと鮮明になる画面。映し出された光景は新総督の就任式のようだ。

民衆の熱気がテレビ越しでも伝わるほどに、ブリタニアの人々は新しい総督の登場を待ち侘びているようだった。

 

歓声の中ゆっくりと姿を現したのは黒髪の皇子。

見事なまでの黒髪と紫の瞳はあの皇子の特徴。それは彼がルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであることを示している。

 

(しくじったか…)

 

もう間違いない。朝比奈は失敗したのだ。

非情な現実を突きつけられ、目の前が暗くなる感覚。卜部の隣で息を呑んだ千葉がぎゅっと唇を噛み締めた。

そんな四聖剣の思いを余所に。ゆったりとした足取りで、歩み寄った椅子に座るその姿は威厳に満ち溢れていて。

忘れ去られていた皇子、そんな過去が似つかわしく無い程に。生まれながらの気品と風格を兼ね備えた少年が其処に居た。

 

「就任式に合わせ、我が騎士を紹介する」

 

ほっそりとした脚を優雅に組み、凛とした声が会場に響く。

艶やかな笑みと共に告げられたその言葉に、周囲からざわめきが生まれる。

あの皇子に騎士が居たという話は聞いたことが無い。…ということはこのタイミングで騎士を得たというのか。

 

「もしやその騎士に…」

 

一人で潜入した朝比奈は、この騎士の前に倒れたのだろうか?

騎士の存在は想定外だった。

もしこの情報を事前にキャッチしていれば、朝比奈を決して一人では行かせなかったのに。

仲間をみすみす無駄死にさせてしまった。悔やむ卜部の目の前、画面の中ではルルーシュの声に呼応するように、背後から現れる一つの影。

黒い髪、マントと騎士服はすべて漆黒で揃えられている。黒の皇子に寄り添うように並んだその姿は、まるで一対の影。

 

「紹介しよう。我が騎士、朝比奈省吾だ」

「朝、比奈!?」

「――ッ!?」

 

凍った室内。ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れていく。
名前を呟いたまま、誰もが声を失った。

信じられなかった。だが、目の前に映っているのは、見間違いようが無い。

イレブンが騎士、そんな囁きと共にざわめく観衆を前に、ルルーシュの隣に並ぶのは確かに朝比奈だった。

だが、笑顔もなく前方を見つめる朝比奈の表情は冷たく、いつもとは別人に思えた。

 

「何故、朝比奈がブリタニアの騎士に…」

 

呆然とした呟きは、動揺を隠そうともせず食い入るように映像を見ていた千葉の物だ。

 

「何故だ…ッ!朝比奈に何があった!?」

 

今にも部屋を飛び出しそうに血相を変えた卜部が、堪え切れない感情に任せて机を叩いた。

きつく握り締められた拳には血が滲んでいる。

藤堂の下に集い、日本の為共に闘った同志。

そして敗戦後も藤堂の奪還を目指して常に行動を共にしていた特別な存在。

それが欠けることなど考えもしていなかった。

 

「朝比奈が藤堂中佐を裏切るなど、ありえん!ありえんのじゃが…」

 

仙波もやはりショックだったようだ。朝比奈の藤堂への忠誠ぶりは四聖剣の中でも群を抜いていた。

「藤堂さんが居る所が俺の居場所」そう言っていた朝比奈がブリタニアに願えることなどありえなかった。そのはずだったのだ。…今までは。

 

ある者は頭を抱え、ある者は脱力したかのように座り込む。

そんな仲間達の前で、画面の中の朝比奈は新総督の前に跪き、騎士の誓いを立てていたのだった――。

 

 

「はぁ…」

 

また一つ、溜め息をつく。

この部屋に戻ってから、何度目だろうか。…もう数えるのが馬鹿らしいほど、言葉ではなくただ溜め息だけを繰り返していた。きっと本人は無意識なのだろう。同じ部屋に居るルルーシュにとってはうっとおしいばかりだが。

 

「はぁ…」

 

朝比奈の意識を捕らえていたのはただ一つ、仲間のことであった。

先程の就任式はテレビで放映されたはずだ。仲間達は見ていただろうか?

 

「いい加減にしろ。部屋にカビが生える」

 

苛立ったようにそう吐き捨てるルルーシュの存在にようやく気がついたかのように、視線を上げた朝比奈がルルーシュを見遣った。

 

「…君は何故、俺を騎士にしたの?」

「理由がほしいのか?」

「…・・・だって普通じゃないよ」

 

(…暗殺者を騎士にして、手元に置くなんて)

 

これでは命を狙えといっているようではないか。

言葉を飲み込み、思わず口篭ってしまった。

そんな常識を伝えても無意味なんじゃないかという無力感に苛まれたのだ。

不可解な出来事が多すぎて、朝比奈の思考は追いついていなかった。

何故この皇子が総督になったのか。何故警備が手薄だったのか。

何故ルルーシュは自分を騎士に選んだのか。

 

――そして何故、自分はそれを拒めなかったのか。

あの時、従順の言葉を口にした自分が今でも信じられない。

覚えているのは、紫色のはずのルルーシュの瞳が赤く光り、そして羽ばたく鳥に襲われたかのような錯覚。

気がついたらルルーシュの傍で跪いていた。ブリタニアの恭順の言葉を口にしながら。

今の朝比奈の思考は正常だと思う。…いや、思いたい。

ルルーシュを敬おうとも思わず、好意すらも抱いていない。ブリタニアを憎む気持ちも前と変わらない。

なのに、次の瞬間ルルーシュに従っている自分が居る。…行動がバラバラだ。

 

「だが、お前にとっても悪い話ではないだろう?目の前にターゲットがぶら下がっているんだ。隙を突いて殺せばいい」

 

他人事のように物騒な言葉を口にするルルーシュの表情はひどく冷めていて。口元には皮肉げな笑みを浮かべていた。

 

「…殺されてもいいの?」

「やればいい。…殺せるならな」

 

自分の命を前にしても焦りさえ見せない、自分より遥かに年下の少年の言葉に朝比奈は目を見張った。

得体の知れない物を前にした恐ろしさ。そんな感情にも似た想いが胸を過ぎった。

 

(この子は…何者なんだ?)

 

「ゲームだと思えばいい。俺を殺すか、…お前が壊れるか」

 

投げられた賽は、まだ止まらない。

不敵なまでに妖しく唇を歪ませ、そう嗤ったルルーシュの顔を、朝比奈はただ呆然と見つめていた。



By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 18:51 | CM : 2 | TB : 0
2010年01月01日


拍手コメントをいただきありがとうございます!!
お返事が大変遅くなってしまって申し訳ございません。
皆様からいただくメッセージが、執筆の原動力です。
いつも本当にありがとうございます!


>菊月ゆうきさま
こんにちは♪お越しくださってありがとうございます。
「大好き〜」は私にしてはものすごい長編になったので、
ようやく展望が見えてきてホッとしています。
朝ルルにハマッて、この作品がどうしても書きたくて
5年ぶりに同人活動を再開したので、
書くことが出来てとても嬉しかったです!
コメントありがとうございました☆


>かすがさま
こんにちは♪メッセージありがとうございます!
「大好き〜」で泣いてくださったと聞いて恐縮です。
切なさを描くことを目指してこの作品を書いたので、
一番嬉しい言葉をいただけてとても幸せです。
相互リンクを貼らせていただきありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願い致します。


>よりこもちさま
こんにちは♪イベントでは大変お世話になり
ありがとうございました!とても楽しかったです☆
アンソロを拝見して「今日この方にお会いしたんだ!」と、とても感動しました!!
マイナーカップリング中心のHPにもかかわらず、
お越しくださってありがとうございます!!
よりこもちさまにとっての初朝ルルが
こんなエロエロ小説ですみません…(汗)
またHPにお邪魔させていただきます♪

By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 16:26 | CM : 0 | TB : 0
2009年12月21日



「黒の皇子 黒の騎士」



※ルルーシュ皇族設定。皇位継承権は放棄せず。



「――日本へ行け」

母親を喪い、傷を負った妹を抱え、怒りと悲しみのまま踏み込んだ室内。

絶対なる皇帝は我が子に非情な命令を口にする。
それは、皇位継承権を放棄するよりも酷な物で。

(父上…何故、貴方は母上を助けなかった)

絶望に染まったその問いに答えが返されることはない。
最愛な妹と引き離され、ルルーシュは独り日本へと送られる。
日本人達が集められた屋敷で、主として孤独な日々が始まったのだ。



日本がブリタニア帝国に敗戦して十年が経った。
それは日本人がその名を失いイレブンと称されるようになって、同じ月日が流れたことを意味していた。

奇跡の藤堂と共にブリタニアと戦った朝比奈達は、雑踏に紛れて生活しながらも、囚われの指揮官の奪還を模索する日々を送っていた。


そんなある日――。


「…あの皇子が?」
「ああ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」

朝比奈の問いに卜部が頷き返す。二人の視線は目の前のテレビにくぎづけになっていた。そこは新総督の就任のニュースが流れている。


ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

日本人でその名を知らぬ者はいなかった。
まだこの地が日本と呼ばれていた頃。
ある日突然現れたブリタニアの皇子は、好奇の目と、後に憎悪の目に晒されることになった。

だが、不思議なことに。
どんなに酷い扱いを受けようとも彼がこの地から去ることはなかったのだ。

敗戦―そしてエリア11となって時が過ぎ。
主を残しすべての者が去っていった屋敷は人影もなく、ひっそりと佇んでいる。
皇子が人前に出てくることはなく、訪ねる者もほとんど居ない。
『幽霊屋敷』
いつしかこう呼ばれるようになったのだ。

(――その彼が突然、何故?)

先程の朝比奈もテレビから流れてきた名前に耳を疑ったのだ。

『新総督の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』

日本人なら誰でも驚きを持ってそのニュースを聞いたであろう。

人々から切り取られた空間で一人で暮らす少年が、まだ生きていることさえあやふやだったのだから。

『ルルーシュ殿下の就任式は三日後に、エリア11にて執り行われます』

女性キャスターの声がそう締めくくり、次の話題へと移っていく。

「三日後…」

ブリタニアからも日本からも切り捨てられたと思っていた皇子が、再び人々の前に姿を現す。
――新たな支配者として。

「どうする?」

卜部が問う。主語はない。
だが、四聖剣の誰もがその意味はわかっている。

日本を憎んでいるはずの総督の就任。
日本人達がかつてルルーシュの命を奪わなかったのは、ブリタニアにとってその皇子の死が打撃とならないことを悟っていたからだ。
だが、今は違う。
ブリタニアが彼に総督の座を与えるというならば。そして日本人にとって害を為す存在となりうるならば。
朝比奈も見逃す訳にはい達かない。

『暗殺』

不穏な一文字が胸を過ぎる。
そしてそれが彼等の答えで。

「…俺が行きます」
「朝比奈」
「一応、壱番隊隊長ですよ」
「だが…」

危険だぞと、かけられた言葉に大丈夫ですと笑顔で返す。
卜部は真剣な表情で押し黙る。
朝比奈の腕は勿論信頼している。
だが、ブリタニアに煮え湯を飲まされた記憶は薄れはしない。

決行は就任式前夜。
就任式を直前にしての新総督の暗殺。
残酷なまでに冴え渡る月が、朝比奈達を見下ろしていた――。


「…どういうこと?」

朝比奈は思わず首を傾げる。
その様子は拍子抜けという言葉が相応しかった。
時期総督と発表されたにも関わらず、幽霊屋敷には警備の者すら見当たらない。先程のニュースは誤報だったのか、と疑いたくなる。
誰にも見咎まれることなく闇に紛れ、屋敷への侵入を果たす。

(えっと、…こっち?)

先程外から窺い見た時、一箇所だけ淡い光が洩れていた窓があった。
きっとそこに居るはずだ。
足音を忍ばせて辿り着いた一室。
カチリと微かな音を立てて扉がゆっくりと開かれていく。
洩れてくる明かりが徐々に大きくなり、思わず眩しさに目を細める。
暗闇に慣れていた瞳が再び像を結んだ時――。

「――誰だ?」

凛とした声。
華奢なシルエットながらも、人の目をひきつける存在感。
そして何より、危うさまで漂う程に美しいその容貌に、思わず息を呑んだ。

(これが、あの皇子…?)

「………」

驚愕の眼差しを向けたまま立ち尽くす朝比奈を目に留め、少年の唇が笑みで歪んだ。

「どうした?殺せばいい」
「……ッ」

からかうような声音。

「どうせそのつもりで来たんだろう?」

すべてお見通しとでもいうように。皮肉げな笑みと共にそう問いかけるルルーシュの表情は、とても少年の物とは思えないほど、大人びている。
暗殺者を前にしながらも、恐怖とは無縁なその様子はかえって不気味に思えて。
内心に広がる違和感を押し殺し、朝比奈は剣を取り出した。

「お望み通り、殺してあげるよッ!」

迷いを振り切るように構えた剣を見ても、身じろぎすらしない。
朝比奈の剣の先がルルーシュの身体を捕らえる――まさにその瞬間。


「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
「!?」

紅い光を放つ瞳。吸い込まれるように見つめた朝比奈は不意に何かが羽ばたいたような錯覚を覚える。

(何…?)

凍りついたように身体が動かない。
力を失った手から剣が滑り落ち、カシャンと大きな音を立てて床に転がっていく。

「お前は今日から我が騎士となれ」

(何、身体が…)

勝手に動き出した身体が恭順の形を表してゆく。

「…イエス、ヨア・ハイネス」

静かに跪づく男を見下ろしたルルーシュの唇が妖しい笑みで歪む。

「イレブン、お前の名は?」
「…朝比奈、省吾」
「朝比奈…か」

戯れのようにその名を口ずさみ、紫の瞳が朝比奈を捕らえる。

「お前は今日から俺の物だ」


暗殺者と支配者。
出会ったばかりの二人の関係は、大きくその形を変えた。
死で結び付くはずだった二人の運命は歪められ、主君と騎士という絆を得た。

この先に待ち構える未来を予測できる者は、もはや誰も居ないのだった――。

By 優月夏梨(ゆうつきかりん) | Time : 00:51 | CM : 3 | TB : 0